婚姻費用を請求する側(権利者)は、いかなるときでも標準算定方式(婚姻費用の分担(その2)をご参照ください)に基づいて、相手方に婚姻費用を請求できるというわけではありません。
権利者に婚姻関係破綻の原因があるなどの特別な事情があり、それを証拠上容易に認定できる場合には、裁判所は、婚姻費用を負担する側(義務者)の義務の程度を軽減することを認めています。
即ち、通常は、婚姻費用を負担する側(義務者)が、請求する側(権利者)に対し、自己と同程度の生活を保障する義務(「生活保持義務」)を負うことになりますが、婚姻関係の破綻の有無・程度や破綻に至った責任の有無に応じて、上記分担義務が「生活扶助義務」(権利者が健康で文化的な最低限度の生活をするための援助をする義務)のレベルまで軽減される場合があることを、判例は認めているのです。
以下、場合を分けて判例や学説の考え方を見ていきたいと思います。
①婚姻関係がまだ破綻していない場合
婚姻関係がいまだ破綻していないケースでは、当然のことながら義務者は、権利者に対し、自己と同程度の生活を保障する義務(生活保持義務)を負うことになります。
すなわち、この場合、婚姻費用は標準算定方式により算定されることになります。
②婚姻関係が破綻し、義務者に破綻に至った責任がある場合
この場合にも、義務者は、権利者に対し、自己と同程度の生活を保障する義務(生活保持義務)を負うことになります。従いまして、原則として婚姻費用は標準算定方式により算定されることになります。
ただし、夫婦が非常に長い期間別居を続けているなど、婚姻関係破綻の程度が著しい場合には、義務者の義務が、生活扶助義務にとどまることもあるとする学説も存在しています。
③婚姻関係が破綻し、双方に破綻に至った責任がある場合
標準算定方式が公表される前の判例では、義務者の婚姻費用分担義務は、生活扶助義務のレベルまで軽減されるとされておりましたが、同算定方式が公表された後は、判例は、義務者の義務は軽減されないとし、同算定方式によって、婚姻費用を算定する考え方を取っております。
ただし、②の場合と同様、破綻の程度(別居の長期化等)によっては、義務者の義務が軽減されることもあるとされております。
④婚姻関係が破綻し、権利者に破綻の責任がある場合
いわゆる有責配偶者からの婚姻費用の分担請求のケースですが、この場合には、権利の濫用として、分担請求が認められない場合があります(仮に認められても、生活扶助義務のレベルにとどまります。)。夫婦は婚姻費用の分担を含む婚姻義務を互いに誠実に履行するべきですが、それを履行しない者が相手方に対してのみ履行を求めるのは、信義則ないし婚姻義務の相互性に反すると考えられるからです。
ただし、婚姻費用のうち、配偶者の生活費にかかる部分が権利濫用として否定された場合でも、子の監護養育の費用にかかる部分については、生活保持義務のレベルで、費用負担が認められることになります。
以上が、おおまかな判例及び学説の考え方です。
参考にしてみてください。

